近代史で捉えるヴォーリズの人物像 新たな論考を出版
軽井沢会集会堂やユニオンチャーチ、睡鳩荘などの建築を手がけたヴォーリズに関する新たな論考『ウィリアム・メレル・ヴォーリズあるいは一柳米来留』を一柳邦久さんが出版した。本書では生い立ちから1957年に死去するまで、関わった分野や社会的活動に焦点を当て、ヴォーリズという人物像に迫っている。
近年、ヴォーリズについての小説が出るなどブームになっているが、「その中には誤解もあるのではないか」と執筆のきっかけを説明する。ヴォーリズは設計だけではなく、キリスト教の伝道活動やメンソレータムの製造販売など多岐にわたり活躍。一柳さんは「専門家が重要視された近現代において、ヴォーリズは反時代的な生き方をした。彼の面白さは、前近代と近現代という時代の壁、国境、文化の壁、社会的格差など、あらゆる境界を軽やかに超えた柔軟性。特異例外的な存在で、人物の全体像がつかみきれない。そこで近現代社会の歴史的文脈の中に彼を置いてみたらヴォーリズという人間の輪郭が浮かび上がってくるのではないかと考えました」 。
一柳さんは1978年に勤務していたNHKで特集番組を手掛けて以来、ヴォーリズに関心を寄せてきた。後に、ヴォーリズの妻・一柳満喜子の姪孫と結婚しヴォーリズの親族に。本書では、一柳満喜子を始めヴォーリズと深くかかわった人々にも触れている。「ヴォーリズは日本の近代を読み解く上で、重要な鍵となる人物。きわめて粗削りな全体像の造形を試みたが、本格的な探究者の出現を期待したい」と締めくくった。
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