軽井沢の文化遺産は守れるか⑤ 広川小夜子

2008_sp_eroise.jpg 吉村順三設計による木造の音楽ホール。左手のスロープを上がると中2階がある。
(前号までの内容/民間で文化遺産を守ろうとする人たちを取り上げています)

 エロイーズ・カニングハムが青少年音楽協会を設立し、南ヶ丘に建てた吉村順三の設計によるハーモニーハウス。これを維持するためにYさんは2015年にエロイーズ・カフェとしてオープンした。しかし、2年後に思わぬことが起こった。

 2017年、町の職員がカフェへやって来て「土地利用行為協議書が出されていない」と言うので、Yさんは驚いて町への手続きを行ったH事務所へ連絡した。2015年に保健所も佐久建設事務所も審査に来てOKになり、手続きはすべて終了したと理解して営業を始めていた。しかし、H事務所からの返事は「協議はしたと思いますが、最終的に書類が受理されていなかったかもしれません」という曖昧なものだった。

 「土地利用行為の協議」とは開業するにあたり隣接する住民に開業の内容を説明することで、理解を得るよう協議と調整が求められている。2015年に店長が隣接の家を回って説明した書類の控えは残っていた。近隣の人たちがカフェのイベントに参加することもり、協議は終了していると思われた。「仕事が忙しくて忘れていた。大変申し訳ない」H事務所は平謝りに謝った。

 2年間、何も言ってこなかった環境課が突然調べに来たのは、近隣住民からの苦情があったからだろう。マスコミに取り上げられ人気店となったカフェに観光客が押し寄せ、狭い道に車が渋滞するようになった。カフェは苦情を受けてコンサートなどのイベントを止め、制限速度「20K」という看板を数ヵ所に立てた。「駐車場を別の場所に」という住民の要望でプリンス通りの駐車場を借り、そこから歩いてもらうようにした。すると「庭をのぞかれる」「おしゃべりがうるさい」「ゴミを捨てて行く」という声があがり、「営業時間を短くしろ」など苦情や要求はさらにエスカレートしていった。カフェの店内も押しかける客の対応に追われ大変な状態だった。これは年間870万人が訪れるオーバーツーリズムの問題でもあった。オーバーツーリズムに関して町の対策は効果の薄い「パーク&ライド」しかなく、積極的な施策は見られなかった。

 そして秋になり、11月の軽井沢自然保護審議会で条例違反のカフェの名前を公表するか否かの審議が行われた。(次号へ続く)

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