水野 正夫 さん(ファッション・デザイナー)

スペシャル-水野さん.jpg 「老化しない秘訣はファッションを楽しむこと」と話す水野正夫さん。
 行き交う人を眺めながらコーヒーを飲む―パリによくあるカフェスタイル。日本でも1970年代からは各地で見られるようになったが、軽井沢では既に60年代、いち早くこのスタイルを取り入れて話題になった店があった。今や伝説にもなっている喫茶店『キャフェ水野』だ。
 ファッション・デザイナーの水野正夫さんが夏季出張店として開いた『キャフェ水野』は白い格子戸が印象的なブティックと、広めのカフェテラスがある喫茶店。そこでアルバイトとして働くためには英語と数学の試験を受けることになっており、合格した容姿端麗な名門女子大生たちがウエイトレスとして働いていることも評判になっていた。
 このカフェの裏手に水野正夫さんの別荘があった。私が訪ねたのは1985年の夏。今以上に賑やかな旧軽銀座、「こんな騒々しい所で快適な別荘生活ができるのかしら」と思いつつ訪ねてみると、そこは大きな木があり涼風が渡ってくる庭になっていた。藤棚の向こうには茅ぶきの茶室もあり、表通りの騒々しさとかけ離れた別世界だった。
軽井沢で出会った人々 vol.5

 「デザイナーの仕事というのは贅沢な空間がないとだめなんです。もし戦争が始まったら一番先にいらないのはファッションでしょう。でも人間が少し豊かになったら、心の贅沢、ゆとり、そういったものが必要です」。軽井沢もファッションも、その意味でも必要なのだという。
 では、軽井沢に合うファッションとは?と尋ねると「7割は気を遣って3割は気を抜いた方がいいんです。僕の場合、男だから下駄を履いてちょっと何か合わせていくと、とても合うんですよ」。
 なるほど、都会ではできないリゾートならではの"粋"でしょうか。
 「日本人はテンションの効いたファッションは上手だけど、気を抜いたファッションは下手だ」と語る水野さん。この頃の軽井沢の観光客はタンクトップにショートパンツ姿が多かった。
 「あれはリゾートを頭で考えちゃった人なんです。海と高原が違うのは当然。リゾートにこだわりすぎて、はき違えているんじゃないかな」
 この日の水野さんのファッションはアーミールックにゴム草履という『気の抜いたファッション』。それがみごとに大きな樹や茅ぶきの家と調和していて、さすが...と思わずにいられませんでした。

みずの・まさお(1928年~2014年)
武蔵野美術大学中退後、文化学院油絵科卒業。3年間のパリ留学後、クチュール水野を開く。東京と軽井沢に「キャフェ水野」を経営。NHKテレビ「婦人百科」「おしゃれ工房」などで活躍。著書に「もっと美的に暮らしたい」「着こなしてますか」他。

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