vol.1 ジゴロー
標高1,000mに位置する軽井沢。自然豊かな町には様々な野生動物が暮らしている。NPO 法人「ピッキオ」では、野生のツキノワグマの保護管理を行い、17 年間で120頭以上を捕獲、追跡してきた。彼らが語る個性豊かなクマのエピソードから、自然と人との共存のヒントが見えてくる。
1、人に対して恐怖心をもたせ、人に気づいたら
距離を とることを教える目的で、捕獲された
クマに 「お仕置き」をしてから放すこと
距離を とることを教える目的で、捕獲された
クマに 「お仕置き」をしてから放すこと
2、軽井沢町では、クマの出没場所や行動の
特徴を
もとに、駆除するかどうかを判断する
基準を設けている
ピッキオでは、捕獲したクマにナンバーと名前をつける。クマは単独行動をすることが多いが、名前があると性格や個性が覚えやすくなり、管理しやすくなるという。「名前をつけるとクマそれぞれに対する責任も増す気がします」とスタッフの田中純平さん。
2003年の夏、旧軽井沢の別荘地でオスグマが罠に掛かり、「ジゴロー」と名付けられた。捕獲時の体重は100キロで、当時としては平均的だった。ジゴローは学習放獣(脚注1)を施され、再び山奥へ放たれた。その後の発信器による追跡で、ジゴローが再び町内に出没し、ゴミ漁りをしていることが分かった。「ジゴローは人間界をよく観察していました。週末や月曜に人里に降りてきていたので、大量のゴミが出る周期も理解していたかもしれない。罠に掛からないので学習放獣もできませんでした」
発信器の電池がもつのは3年間。年を追うごとにジゴローの餌付きは酷くなり、06年に駆除(脚注2)の判断が下った。
罠に使う食べ物は、原則としてはちみつなどの自然にあるクマの好物だ。ゴミを漁る癖がつくと困るので普通は人の食べ物を用いない。しかしジゴローは駆除が決定しており、一刻も早く捕獲する必要があったので、大好物だったケーキを例外的に仕掛けた。再捕獲時のジゴローの体重は170キロ。ピッキオが捕まえてきたクマの中で一番大きいという。クマが開けられないよう設計された「野生動物対策ゴミ箱」の開発で、町内の野生動物によるゴミ被害は減少した。
「ジゴローは秋に捕獲しましたが、これは珍しいケース。秋の軽井沢にはクマの好物の木の実がたくさんなるので、罠のエサにあまりつられない。クマは基本的に、人の食べ物よりも自然にあるものを好むんです。逆にジゴローのようにゴミを漁る癖がついてしまったクマを元に戻すのは難しい。ゴミ管理と、徹底した追跡・追い払いが、ジゴローのようなクマを生まないためには必要です」
自分のゴミの出し方が、野生動物に影響を与えるかもしれない。一人ひとりの意識が大切だということを強く感じた。
(A記者)