vol.2 ニム

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 軽井沢町の北部に広がる豊かな森は、80年以上の歴史をもつ、国指定の鳥獣保護区だ。長く人間に追われる恐怖が無かった影響か、軽井沢では2000年を過ぎた一時期に、人を見ても逃げないクマが現れた。

「今はない光景ですが、昼間に人がいても気にせずに木の上で木の実を食べているクマもいました。こちらが保護をすれば、動物は気を許すんですね」
 2004年の夏に、ニムという1才のオスグマが駆除された。最初に捕獲されたのは5月31日。駆除されたのは同年7月19日だった。  7月19日未明、ニムは離山の辺りに出没し、ピッキオのスタッフが夜通しで監視を続けていた。しかしスタッフが交代する1時間の間に、ニムは山を降り、国道18号線を越えて南へ渡ってしまった。
「山に戻そうとしたんですけど、その日は大雨で、音で威嚇することができなかった。そのまま夜が明けてしまったんです」  土曜日だったこともあり、すぐに国道18号線は渋滞し始め、ニムはしなの鉄道の線路付近から動かなくなった。

「経験からすれば、夜になれば自分から山へ戻ったと思います。だから本当は待ちたかったけれど、やはり何かあってからでは遅い。私は10mくらいのところからニムを見ていました。離山をじっと見つめながら、クンクンと匂いを嗅いでいるんです。その姿が『オレ、あっちに帰りたいんだけどな』と言っているみたいで。あの光景は忘れられない」

 麻酔銃で眠らせようとしたがうまく行かず、ニムは同日午前中のうちに射殺された。まだ若かったニムは、暮らしていく場所を探している最中だった可能性もある。森をさまよううちに、離山付近に暮らす他のクマから追い出され、国道を越えてしまったのかもしれない。
「ニムが人里に出てきてしまったのが週末でなければ、あるいは夏以外の季節だったら、別の方法があったかもしれないですね」

 緑豊かな町であると同時に、年間入込客数が800万人を超える避暑地でもある軽井沢。そこでの野生動物との共生の難しさ、複雑さが、ニムの話から分かる。(A記者)


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