"安心して暮らせる別荘地"が基本

軽井沢が見える万華鏡 №25

ph_201409_01.jpg 木々を伐採し、急斜面を開発した別荘地
60年前から旧軽井沢の別荘で、毎夏過ごしているSさん。2011年のある日、長野県砂防課から「土砂災害警戒区域」説明会の連絡を受けて驚いた。「緑に囲まれ、小鳥のさえずりを聞きながら過ごす、快適なこの別荘地が危険区域だとは!」。しかし、言われてみれば、近くの緑の丘は削られ、いつの間にか、むき出しの斜面にモダンな別荘がたくさん出来ている。「もし、大雨になってあそこが崩れたら、この家はひとたまりもない」
 この夏、日本列島は集中豪雨による被害に見舞われ、8月20日、広島県では大規模な土砂災害で70人以上が亡くなった。急傾斜地の土砂災害の危険は、山や丘陵を切り開き分譲してきた場所も多い軽井沢では、人ごととは言えない。
 2003年に、長野県は「土砂災害危険箇所の分布状況地図」を発表している。軽井沢別荘団体連合会では、急傾斜地の樹木を伐採し見晴らしを良くして販売しようとする業者があとを絶たないため、「急斜面の樹木を根こそぎ伐採すると危険」というチラシを作り、裏面にこの地図を入れた。土石流やがけ崩れの生じる危険な地域が記されているため、反響も大きかった。 
 県砂防課は旧軽井沢の調査が終了した2011年、東京と軽井沢で土地所有者への説明会を開いた。東京では約100名、軽井沢では約70名が参加。どちらの会場でも「歴史ある別荘の資産価値が失われる」「目視だけで指定するのはおかしい」など、多くの参加者が指定に反対して会場は大混乱になった。前述のSさんはこの説明会で、自分の別荘の危険度を初めて認識した。開発によっていつの間にか危険になっていく場所というのは意外と多い。自分たちがそうしたわけでなく、無謀な開発によって危険になるだけに、気づいたときにはどうしようもない状態になっている。土砂災害警戒区域に指定されると、開発は規制される。このとき旧軽井沢だけでも指定されるはずだったが、結局、延期になった。その理由が「不公平のないよう軽井沢全域の調査が終了してから」だという。これがなぜ理由になるのか、理解に苦しむ。いったい、誰に対して不公平なのか?本来、行政の立場なら、危険な場所での開発を1日も早く止めさせるべきだろう。まさか、「指定を遅らせるから、その間に開発して売却を」というわけではあるまい。
「歴史ある別荘地の資産価値が失われる」と心配する人も多かったが、大災害になり人命が失われては、「歴史ある別荘地」も「資産価値」も吹っ飛んでしまう。前号の軽井沢新聞に掲載したように、県は軽井沢全域の基礎調査を今年度中には終え、イエローゾーン(土砂災害警戒区域)とレッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)を指定すると述べた。土砂災害の危険性は広島の犠牲で多くの人が理解したはずだ。今回は確実に指定し、町も「警戒避難体制の整備」を迅速に進めてもらいたいものである。

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