127年目の軽井沢 Vol.5
軽井沢自然保護対策要綱には、「良好な生活環境の保持」など、保養地域(別荘地)で心地よく過ごせるよう配慮することが謳われている。この要綱はいったいどのように作られたのか、役場に聞いても知っている人は誰もいなかった。
取材してみると、離山に展望レストランの計画が持ち上がったことがきっかけだったことや、別荘の人々の知恵を集めたものだということ等がわかった)
私は奥山さんからその話を聞き、どういう理由で変えたのか、生活環境課に訊いてみた。窓口の職員は「『原則として工事を行わない』も『自粛する』も同じこと」と言う。しかし、奥山さんも私も「同じなら変える必要はないはず。変えたからには理由があるのでは」と不思議に思った。
奥山さんは要綱がときどき変わっていることを指摘する。生活環境課の話では、要綱を変更するときは、町長が了承印を押し、町役場の国道前にあるガラス戸付きの掲示板に約2週間掲示するという。しかし、この掲示板に貼った紙は文字が小さく読みづらい。わからないうちに貼りだされ、期間が過ぎてしまうということが多い。「重要なことが貼りだされていると知っている?」と周囲の人に聞いてみたが、ほとんどの人が知らなかった。
要綱が制定されたときに、『軽井沢町自然保護審議会』が設立されている。同審議会委員は20名。"町議会議員"は4名、"知識経験者"の12名は教育委員会や商工会、観光協会、区長会、農業委員会、不動産協会、建築士会などの代表者たち。そして、佐久地方事務所や保健福祉事務所、東信森林管理署など"関係官公庁職員"が4名。彼らによって、軽井沢自然保護対策要綱に関連する議題が審議されるが、そこには別荘所有者は一人もいない。議題は第1種低層住居専用地域(別荘地域)に関することも多いのに。
前号で述べたように、要綱は別荘の先人たちの知恵を集めて作られたもので、別荘住民の視点で書かれている。その要綱に関しての審議会であれば、町民同様、町に固定資産税を支払っている別荘所有者が加わるのは当然のことだ。
8年前、南原に暮らすシナリオライターの佐伯俊道さんは、このことに疑問をいだき、当時の町長と面談した際「別荘住民を入れるべきだ」と何回か要望した。しかし、「公務員以外の委員はみな町民である」というロジックで無視されたという。「オブザーバーでもいいのではないかと言ったのですが、それすら認められませんでした」と嘆く。一番検討される環境で暮らす別荘住民を、検討する機会に加えたくない理由とは、何なのだろうか。
(次号へ続く)
広川小夜子
※「127年目の軽井沢」の127年とは、A.C.ショーが軽井沢を避暑地として見出してからの歳月。