【軽井沢人物語】サイエンス・イラストレーター 菊谷詩子 さん
軽井沢のクマを3年半かけ取材 小中学生向けの絵本に
「学校帰りに国立公園に寄り、野生のライオンやゾウを車から見ながら帰っていました」
小学校時代の5年間をタンザニア、ケニアで過ごしたことで、大の動物好きに。その日に見た動物はすぐイラストにするなど、絵を描くことにも夢中になった。
教科書や図鑑、博物館の展示などに登場する、動物の解剖図や恐竜の復元画----。科学的な内容を視覚で正確に伝える「サイエンス・イラストレーター」として活動する。その仕事を知ったのは、ヒラメの体色変化について研究していた東京大学大学院在学中。自身の専攻する「生物科学」と、憧れだった「芸術」が結びついた職業に惹かれ、修士号を取得後、米国で専門的に学んだ。
初仕事はゾウの鼻の断面図。研究者から送られてきたホルマリン漬けの鼻の輪切りは「パイナップルのスライスを2つ組み合わせたよう」にしか見えず、いかに分かりやすく描くか苦心した。
町内でクマの保護管理にあたるNPO法人「ピッキオ」の活動を3年半かけて取材し、絵本「月刊たくさんのふしぎ11月号 となりにすんでるクマのこと」(福音館書店)にまとめ昨年出版。同行取材中に出会ったメスのコノカを中心に、クマの行動やそれぞれの個性、ピッキオの活動がわかるよう物語を組み立てた。
「身近に住んでいるクマについて、何も知らないことが怖かった。何より私自身がクマを知りたかった」
ごみに餌付いたクマを捕殺する現場にも立ち会った。絵本の中で駆除をどう伝えるか、最も神経を使った。
「ピッキオがどんなに対策しても、家庭ごみが外に放置されていたらクマは出てきてしまう。森に暮らす一人ひとりの意識の高まりで、捕殺を減らせることは伝えたかった」
夫の所有していた軽井沢の土地に、家族で10年以上かけて家をセルフビルド。神奈川県から2019年に移り住むが「完成はまだまだ先。今はテラスを建設中です。(本来開くはずの)開かずの窓もあるんです」。
家の周囲にいくつも設置したライブカメラで、やってくる野生動物をチェックするのが毎日の楽しみ。次は軽井沢の森全体をテーマにした絵本を作ろうと、構想を練っている。