【軽井沢人物語】音楽家 谷川賢作 さん
父・谷川俊太郎さんの詩を、メロディーに乗せ届ける
11月13日に92歳で亡くなった詩人で父の谷川俊太郎さんの死を公表後、初めてのコンサートを中軽井沢図書館で30日に開いた。「父自身『追悼』という言葉があまり好きではなかった。向こうで『いつも通りやれよ』と言っている気がします」と、プログラムは変更せず、俊太郎さんとの共作曲を中心に約20曲をピアノ演奏。歌手の鈴木絵麻さんと歌唱し、最後は会場に集まった約60人と『鉄腕アトム』の主題歌を明るく歌いあげた。
「偉大なる詩人」「詩の巨人」などと語られることもある俊太郎さんだが、息子だからこそ知るチャーミングな一面も。高齢ということもあり、2018年ごろから車の運転をしないよう伝えていたが、ご近所さんがドライブ姿を目撃。賢作さんが問いただすと「『あ、バレたか』って。そういうお茶目な人だったんです。『何しに行ったの』と聞くと、『牛乳買いに行った』って」。
母に背中を押され小学1年から習い始めたピアノは、通っているうちに「好きになっていきました」。1986年公開の市川崑監督『鹿鳴館』で初めて映画音楽を手がけ、95年には同監督の『四十七人の刺客』で、アジア太平洋映画祭最優秀音楽賞を受賞。昨年開校した長野原中学校など、俊太郎さんと共作した校歌は、幼稚園から大学まで約30校に上る。様々な現代詩に曲をつけ歌うグループ「Diva」やソロなど、多彩な音楽活動を行っている。
俊太郎さんの詩に曲をつけるのは 「野球のスカウトのような感覚。詩集を読みながら、歌になりそうな曲を探していくんです。発見したときは嬉しいですよ」。
小学校の6年間は、夏休みのまる一カ月を北軽井沢の山荘で過ごした。
「祖父母も一緒で妹も入れて6人、大自然の中で暮らしたのは大切な思い出です。軽井沢へ下りるのはハレの日とか、誰かと食事するとか特別なときでした」
今回のコンサートで、詩3編を朗読した青木裕子さんが館長を務める軽井沢朗読館は「森の奥にポツンとあって、大好きな場所」。コロナ前の数年間は毎夏、俊太郎さんと共に朗読とピアノの公演を行った。25年8月には公演と合わせ、俊太郎さんの思い出を語る会も同館で予定している。