【軽井沢人物語】指揮者 岸本 祐有乃さん

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免疫学の研究者を志すも 大病をきっかけに指揮者に転身

 音大進学を希望するも、両親に反対されピアノの道を断念。東京大学へ進み免疫学の研究者を志した。博士課程在学中に出産し、直後に大病を患い入院し、生き方を見つめ直した。ふらりと参加した東京藝術大学の市民公開講座で、学生アンサンブルを指揮し多くの人の演奏技術を借りて、音楽を表現する楽しさにすっかり魅了された。

「ピアノも研究も自分と向き合うことが多い世界だったので、目からウロコでした」

 その一年半後、東京藝術大学音楽学部指揮科に合格。2005年からウィーン国立音大へ留学し、欧州各地で様々なオーケストラを指揮した。初対面で国籍もばらばらの楽団を数日間でまとめあげるには、指揮者としての力量はもちろん、語学力に話術、瞬時の的確な判断力など多くを求められる。

 「それぞれのクセや性格を観察把握し、リスクマネジメントを行いながら、さらなる深い表現を引き出して行く。1人対オーケストラという構図に見えがちだけど、100人いたら1対1の人間関係が100通りあるイメージです」

 長年課題に感じていたリーダーシップのセオリーを学ぼうと、17年にMBA(経営学修士)を取得。音楽以外からも指揮者に必要なエッセンスを吸収する。

「音楽家はビジネスには疎い方も多く、主催者がため息をつく場面を目の当たりにすることも多かった。ビジネス思考を学ぶことで、双方のギャップを埋められるという思いもありました」

 20年、長女の大学進学、新型コロナ感染拡大を機に、より自然の多い環境で音楽に向き合おうと夫妻と愛犬で軽井沢へ移住した。

「ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』で描かれるような、鳥のさえずりが心地いいですね。東京にいたときよりも感性が豊かになり、自然からも多くのインスピレーションを得ていると感じます」

 北九州市出身。15年にスペイン・コルドバ国際指揮者コンクール3位に。桐朋学園、洗足学園音大で講師を務める。女性リーダーの活躍推進、グローバル人材育成と、後進指導にも意欲的だ。

 軽井沢では11月3日、浅間学園で講演と指揮体験ワークショップに登壇。来年1月19日、軽井沢大賀ホール「丸の内交響楽団ニューイヤーコンサート」でタクトをとる。

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