【軽井沢人物語】船大工 佐野末四郎 さん
造船の技術をベースに、木製のロードバイクをつくる
江戸時代から木造艇を建造する船大工の家に生まれる。小学生でのこぎりや金づちなどの使い方を覚え、高校3年で初めて一から船を完成させた。2艘目を作ると、アメリカの木造船専門誌『Wooden Boat』で特集が組まれ「『佐野のマジックだ』と称されたのが、社名のSANOMAGICの由来です」。
30代前半、オランダのハイスマン王立造船所で大型船について学び、帰国直前にバブルが崩壊。船の受注はぴたりと途絶えたが「私には船しかなかった」。
同時期に贈呈品としてマホガニー材のテーブルとチェアの発注を受け納品。贈り先は日本画家の平山郁夫さんだった。
「大変褒めてくださって、造船の技術や知識が、他のものづくりにも生かせるという感触を得られました」
家具やスピーカーを作り続けていると、やがて船の受注も入るように。2008年からは世界でも珍しいマホガニーのロードバイクを製造。テストモデルを含めると、今年の納品分で50台になる。
「木のフレームがアシストしてくれるので、人間の力以上の力がバイクに伝わる。2万㌔ごとに金具部分を交換すれば2代、3代と乗り継げます」
「東京2020オリンピック」開催にともなう再開発計画の影響を受け19年、海が目の前の新木場から高原の軽井沢へ工房を移転。始めは「新しい土地でのんびり仕事ができる」と高を括っていたが、評判は口コミで広がり受注数は予想以上。制作スケジュールは来年いっぱい埋まっている。
「頼まれるとついつい引き受けて、自分で自分の首をしめちゃうんだけど、妥協せずに作ったものを喜んでもらえるのは、何よりのご褒美」
昼休みにマホガニー自転車を走らせて、空気を浴びるのが息抜き。「軽井沢は坂ばかり」ですぐ息が切れ、最初は30分走るのがやっと。毎日乗り続けると、長時間走行も苦にならなくなり、日帰りで昨年は善光寺往復、今年は直江津まで行ってきた。
1958年生まれ。ハイスマン王立造船所から、オランダの国立海洋博物館に永久保存する船の製作を打診されている。
「いざ取りかかると、無収入で2年間はかかりきりになる。作りたい気持ちはあるけど、葛藤しています」