【軽井沢人物語】キーボード奏者 矢嶋 マキ さん
サポートミュージシャン一筋も 70歳を前に初のソロアルバム
国立音大ピアノ科に入学してまもなく、高校時代の知り合いから「すばらしい曲を書く女性がデビューするからバンドを手伝って」と電話があり、引き受けたのがキャリアの始まり。電話の主は音楽プロデューサーの松任谷正隆さん、デビューする女性は荒井由実さんだった。
「『あの日に帰りたい』がヒットする前は、ツアーでもお客さんはぱらぱら。ただ、演奏中に自然と詩が耳に入ってくるのは、ユーミンがダントツ。絶対売れると確信していました」
その後も吉田拓郎さん、南こうせつさん、中島みゆきさんなど名だたるアーティストのステージをサポート。スタジオ・ミュージシャンとしても、多くの歌手やアイドルのレコーディングに参加し、携わった楽曲は数千を超える。力強いピアノが印象的な五輪真弓さんのヒット曲『恋人よ』は、録音後しばらくして「ピアノだけ差し替えたい」と、プロデューサーから依頼があった。
「ピアノやリズムセクションはいつも最初に録るので、オーケストラも五輪さんの歌も入ったところにピアノを乗せていく作業は新鮮でした。何て気持ちいいレコーディングなんだろうって」
幼少期から万平ホテル近くにあった別荘で夏を過ごした。大人になってからも「いつかは住みたい」と思い続け、子どもが手を離れたタイミングで2010年に移住。遊びにきた友人を案内した旧三笠ホテルで、音大受験を控えた高校3年の夏休み、必死に弾いていたピアノと約50年ぶりに再会した。
「別荘にはピアノがなく、軽井沢集会堂で借りて練習していました。そのピアノが寄贈されて置いてあったんです。『私、これのお陰で大学受かったんだ』と感慨深かったですね」
これまでサポート役一筋だったが「70歳になったら何か新しいことを」とことし8月、初めてのソロアルバム「Dolce」をリリース。新型コロナによる巣ごもり期間中、軽井沢の身近な自然をヒントに、気の赴くままに奏でた7曲を収録している。
「自分を主張しすぎず、自然の邪魔にならない曲が、少しは書けるようになったのかな」
脇田美術館で11月19日、ソロコンサートを開く。サポートでは縁がなかったMCが必要となるため「この曲のあとにお喋りを...とか考えながら、初めての経験を楽しんでいます」。
「Dolce」収録曲を中心に、晩秋にまつわる曲も織り交ぜながら演奏する予定だ。