【軽井沢人物語】舞踊史研究家 芳賀直子 さん

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(photo:SAI)

バレエ史研究の第一人者 歴史から広がる芳醇な芸術を伝えて

 衣裳にココ・シャネル、美術にピカソやマリー・ローランサン、台本にジャン・コクトー、音楽にラヴェルやストラヴィンスキーが参加したバレエ団「バレエ・リュス」。ロシアの貴族セルジュ・ディアギレフが主宰し、1909年から20年間のみ活動した幻のバレエ団は、ニジンスキーがヨーロッパデビューしたことでも知られている。20世紀初頭の文化・芸術が凝縮したバレエ・リュスを中心に、舞踊史の専門家として執筆活動や講義を行っている。

「大学3年生の時にニジンスキーをテーマにした映画や舞台でバレエ・リュスに出会い、研究の道へ進みました。パリやニューヨーク、ロンドンの図書館で資料に向き合い、再上演があると聞けばその劇場へ、資料があると聞けばその場所へ、世界のどこへでも行きました」

 1998年にセゾン美術館で開催されたバレエ・リュス展に携わる。以後、舞踊史研究家として公演のプログラムや新聞に原稿を書いたり、大学の客員教授や新国立劇場バレエ研修所、Kバレエカンパニーなどでバレエ史を教えている。「バレエを習っている沢山の日本の方に歴史の面白さを知ってほしいですね。文化芸術としてのバレエにも関心を持ってもらえると嬉しい」

 軽井沢では曾祖父がオランダ人から購入した築100年以上の歴史ある別荘で毎夏を過ごす。作り付けの棚や階段の手すりは木材がそのままの形で使用されていて、軽井沢の別荘建築としても貴重なものだ。

「庭に射し込む光がとても美しくて、そこで本を読んだりして過ごす時間が幸せです。訪れる鳥たちを眺めるのも楽しみの一つ」

 コロナ禍でバレエも他の舞台公演や講演も軒並み中止になっていった。芳賀さんも舞台を見る機会が減少し、海外へも行かれなくなった。それならばとオンラインでトークイベントを10回以上開催した。

「コロナ禍で芸術や文化は不要不急とも言われましたが、文化は人を救う生活必需品。日本では文化が"高級品"扱いされていますが、例えばスウェーデンは25%の消費税率なのに、舞台のチケットは6%。文化を信頼し、支援する姿勢が感じられます。アートはどんな人にも活力を与え、人生を豊かにするものです」

 芸術の力を信じ、来年から軽井沢でも文化的なイベントを企画中だ。

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