【軽井沢人物語】京都大学白眉センター特定助教 鈴木俊貴 さん
軽井沢の森の中で「シジュウカラ語」を研究
シジュウカラの鳴き声に、文法規則があることを発見。ヒト以外の言葉の使用を実証した初めての例として、国内外の研究者などから大きな注目を集めた。「ピーツピ」(警戒しろ)、「ヂヂヂ」(集まれ)、「ヒーヒー」(タカだ)など、20以上の単語を組み合わせ、200以上の文章をつくる可能性があるという。
「『ジャージャー』はヘビを表す名詞。小さなすき間からでも巣箱に入り込むヘビは、シジュウカラの特別な天敵。仲間に注意を促すのに、単語として進化してきました。その声を聞いた他の種類の鳥も、ヘビのいそうな場所を探すことがわかっています」
東邦大学3年のとき、軽井沢の森でシジュウカラが鳴き声を使い分けていることに気付いた。今も一年の半分は軽井沢で、毎日8〜12時間を森の中で過ごす。
「軽井沢の森は植物が豊かで、そこに集まる虫や動物の種類も多い。他の鳥や多様な動物の存在が、シジュウカラの言葉の進化にどう影響してきたか、調べるのにいい場所です」
天敵に見つかりやすく餌が少ない冬は、互いの言葉を理解し合うヤマガラ、ゴジュウカラなどと、大きな群れをつくって生き延びる。単体で活動するリスも、シジュウカラの言葉を聞いて、餌場の位置を把握するという。
「鳥たちは他の種類に言葉があることを認め、理解してお互い助け合って生きている。シジュウカラが何を考えているかわかると、人間だけが人間の世界に閉じこもっていると、感じるようになりました」
小さい頃から虫や魚を捕まえるのが好きで、小学2年のとき、動物学者になりたいと文集に書き残した。
「どこで何を捕まえたとか、どんな鳥を見たとかは、鮮明に覚えていますが、誰とそこへ行ったかはあんまり覚えていない(笑)」
日本生態学会宮地賞(2018年3月)、文部科学大臣表彰若手科学者賞(21年4月)などの数々の受賞も「すべてシジュウカラのお陰」と謙遜する。今後はヒトの言葉との共通点の解明や、欧州のシジュウカラとの言語比較にも意欲を示す。
「人間以外の生き物が世界をどう見ているか解き明かすことで、僕たち人間の見える世界を広げていきたい」
1983年生まれ、東京都練馬区出身。鳥の鳴き声の録音も兼ね、軽井沢ではカフェ巡りも楽しむ。